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京都地方裁判所 昭和58年(行ウ)37号 判決 1985年3月27日

京都市伏見区深草新門丈町一三番地

原告

花田隆一

訴訟代理人弁護士

村山晃

黛千恵子

京都市下京区間ノ町五条下ル大津町

被告

下京税務署長

小幡隆

指定代理人検事

笠原嘉人

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  原告

被告が、昭和五七年七月八日付で原告に対してした、原告の昭和五四年分ないし昭和五六年分(以下本件係争年分という)の所得税更正処分(以下本件処分という)のうち、昭和五四年分の総所得金額が一七一万円、昭和五五年分の総所得金額が一二一万円、昭和五六年分の総所得金額が一二一万円を、いずれも超える部分を取り消す。

訴訟費用は、被告の負担とする。

との判決。

二  被告

主文同旨の判決

第二当事者の主張

一  本件請求の原因事実

1  原告は、京都市南区東九条西明田町一八番地 洛南トップスーパー内で、「天国屋」の屋号で豆腐類の製造小売業を営む白色申告の個人事業者であるが、本件係争年分の確定申告をしたところ、被告は、昭和五七年七月八日付で本件処分をした。原告は、これに対し、異議申立、審査請求をしたが、その手続経過と内容は、別紙1記載のとおりである。

2  しかし、本件処分には、次の違法がある。

(一) 被告の部下職員は、本件税務調査をするにあたり、その必要性や理由を原告に開示しなかった。そして、被告は、一方的に反面調査のうえ本件処分をした。したがって、本件処分には、手続的瑕疵がある。

(二) 本件処分の通知書には、理由附記がない。したがって、本件処分は、違法である。

(三) 被告は、本件処分をするについて、原告の本件係争年分の総所得金額を過大に認定した。したがって、本件処分はこの点で取消しを免れない。

3  結論

原告は、被告に対し、本件処分のうち、請求の趣旨第一項掲記の範囲内でその取消しを求める。

二  被告の答弁

本件請求の原因事実中1の事実は認め、2の主張は争う。

三  被告の主張

1  被告の部下職員は、昭和五七年四月二八日以降、原告の営業所に臨場して本件係争年分の所得金額が適正であるかどうかを確認するため調査にきた旨を告げ、原告に対し必要な帳簿書類等の提示を求めたが、原告は、非協力的態度に終始した。

被告は、やむをえず反面調査をして推計課税の方法で本件処分をした。したがって、本件処分には、なんら手続的瑕疵はない。

2  被告には、原告のような白色申告者に対する更正処分の通知書に、理由を附記する法律上の義務がない。

3  原告の本件係争年分の総所得金額(事業所得金額)は、別紙2記載のとおりである。以下に分説する。

<省略>

(一) 同業者の選定

訴外大阪国税局長は、京都市内を管轄する全税務署に対し、次の条件に該当する同業者を抽出するよう通達した。

イ 本件係争年分に豆腐製造小売業を営み、他の事業を兼業していない者で、京都市内に事業所を有している者であること。

ロ 年間を通じて事業を継続して営んでいる者であること。

ハ 本件係争年分の課税処分につき、不服申立て又は訴訟を提起していない者であること。

ニ 本件係争年分を通じ、青色申告書を提出している個人業者であって、実地調査によって大豆仕入数量が把握されている者であること。

このようにして抽出された同業者を整理したものが、別紙3の1ないし3である。

右同業者の選定基準は、原告の事業内容に基づき設定されたものであり、当該基準により選定された同業者は、原告と営業地域、営業形態等の点において類似性がある。

右同業者の抽出は、大阪国税局長の通達に基づいて機械的になされたものであり、その抽出に当たって恣意の介入する余地はない。そのうえ、同業者は、青色申告による納税者であるから、その算定の基礎となる資料は、すべて正確である。

(二) 別紙2の<1>売上金額

<1>売上金額の計算は、別紙4記載のとおりである。

豆腐製造販売業の営業形態は、おおむね同一であり、その収入金額及び所得金額は、ともに原材料である大豆の使用数量に比例するものと考えられるから、同業者の客観的・合理的な平均所得率、仕入大豆一〇キログラム当たり収入金額の平均値は、各業者の立地条件・営業規模の差異いかんにかかわらず、通常一般の豆腐製造販売業者の所得率、仕入大豆一〇キログラム当たり収入金額と大差がないと思料し得るものである。

したがって、原告の所得金額の算定に当たって、同業者の大豆一〇キログラム当たり収入金額及び所得率の平均値によって売上金額及び所得金額を推計することには、十分合理性がある。

そうして、原告の大豆仕入数量は、別紙4の<1>記載のとおりである。

<省略>

なお、原告は、棚卸をしていないが、本件係争年分を通じて期首及び期末の各棚卸額に大差がないものとして、大豆仕入数量をその年分の大豆消費量とした。

(三) 別紙2の<2>算出所得金額

<2>算出所得金額の計算は、別紙5記載のとおりである。

(四) 別紙2の<3>特別経費

<3>特別経費は、別紙6記載のとおりである。

(五) 別紙2の<5>事業専従者控除額

原告の確定申告書に記載された原告の妻訴外花田八重子に対する事業専従者控除額四〇万円を計上した。

4  まとめ

本件処分には、原告主張の手続的瑕疵はないし、原告の本件係争年分の事業所得金額を過大に認定した違法はない。

四  被告の主張に対する原告の反論

1  確定申告をする際、収入金額や必要経費を記載する義務がないから、これらの記載のないことを理由に税務調査をするのは、調査権の濫用である。

2  被告の部下職員は、本件税務調査をするについて、予め連絡せず、調査理由を一切述べず、仕事中の原告に対し、高圧的に帳簿の提示を求めた。原告に対するこのような調査を拒否したからといって、これを理由に原告に対し不利益を課すことは、許されない。

3  被告の部下職員は、不必要かつ不適法な反面調査をした。

4  別紙2の<3>特別経費、<4>事業専従者控除額、別紙4の<1>大豆仕入数量は、いずれも認める。

5  原告には、昭和五四年分、昭和五五年分にも、特別経費として、雇人費四万円が控除されるべきである。

6  被告主張の同業者は、次の理由で類似性がない。

(一) 原告の事業所の周辺には同業者がひしめき、ダンピングが日常的に行われ、売残りが多量に発生する情況下にある。同業者は、原告のこのような情況下にあるものが選ばれなければならない。

(二) 被告の主張する本件同業者率によると、六キログラム(一単位)の大豆から約七〇〇〇円の豆腐の売上がえられることになる。しかし、原告は、六キログラムの大豆から、五〇〇〇円しか豆腐の売上がない。これは、安売りのためである。したがって、本件同業者は、原告に類似性がない。

第三証拠関係

本件記録中の証拠関係目録記載のとおり。

理由

一  本件請求の原因事実中1の事実は、当事者間に争いがない。

二  税務職員が、所得税法二三四条に定められた質問検査権を行使する場合、調査の時機や調査方法などについて、同法になんら具体的規定がない以上、その質問検査権の行使が、社会通念上相当な限度にとどまる限り、税務職員の合理的裁量にゆだねられていると解するのが相当である。

本件において、被告の部下職員は、原告の事業所に臨場し、「昭和五四年分から昭和五六年分までの所得税について申告された金額が正しいかどうか確認するため、所得税の調査に寄せてもらった。申告の基となった帳簿、書類を見せて下さい。」と原告に告げたが、原告は全く非協力的態度に終始したのである(このことは、証人江上明の証言によって認める。)。したがって、被告の部下職員は、原告に対し、調査理由を開示したことになる。

原告は、事前通知がないことを挙げているが、前述したとおり、所得税法上、事前通知義務を税務職員の税務調査に義務づけていないわけであるから、事前通知をしなかったことが、直ちに質問検査権の行使を違法ならしめるものではない。

原告が非協力的態度に終始する限り、被告が、反面調査のうえ推計課税の方法で本件処分をするのは、蓋し当然のことであり、原告が、これを非難攻撃するのは、的外れである。

以上の次第で、本件税務調査には、原告主張の手続的瑕疵はないことに帰着する。

三  所得税法上、更正処分の通知書に理由附記が義務づけられるのは、青色申告書に係る所得金額等を更正する場合に限られる(同法一五五条二項)。したがって、原告のような白色申告書に係る所得金額の更正には、理由附記が義務づけられていないと解するのが相当である。したがって、原告のこの点の主張は、失当である。

四  本件処分の事業所得金額の過大認定の有無について

1  別紙2の<3>特別経費、<4>事業専従者控除額、別紙4の<1>大豆仕入数量は、いずれも、当事者間に争いがない。

2  同業者の選定

(一)  証人盛田正昭の証言によって成立が認められる乙第二号証の一ないし七、同第三ないし第九号証や同証言によると、被告は、その主張の条件で京都市内の税務署から同業者の報告を受け、これを整理したものが、別紙3の1ないし3であることが認められ、この認定に反する証拠はない。

(二)  ところで、原告のような豆腐屋に対し推計課税をする場合、豆腐屋の売上には、豆腐の外、油揚げ、がんもどき、コンニャクなどがある(原告本人尋問の結果による)。しかし、いわゆる個人の豆腐屋は、豆腐の製造販売を主としていることは社会通念上明らかであり、製造販売の方法に根本的な差異があると考えられないから、仕入れた大豆の数量によって売上金額を推計するのが、最も合理的であるとしなければならない。したがって、被告が原告の売上金額を算出するに当たり、この方法を採用したことは、是認されなければならない。

もっとも、大豆使用数量の多寡と売上金額とは、厳密には、相関しない。なぜなら、同業者の売上金額の中には、前述した豆腐以外に油揚げ、がんもどき、コンニャクなどが含まれているし、豆腐に使用する大豆量や豆腐一丁の大きさにも大小があり、また販売条件にも差があるからである。しかし、原告を含む本件同業者は、豆腐の製造販売を主たる業とし、あわせて油揚げ、コンニャクなどを販売しているいわゆる個人の豆腐屋であってみれば、前述した意味での相関がないことが、この方法を採用する妨げにならないのである。そして、ある業者は豆腐の売上が多く、ある業者は比較的油揚げやコンニャクなどの売上が多いとか、販売条件が異るとかという業態の違いは、本件のように多数の同業者の大豆一〇キログラム当たりの平均収入金額(各同業者の総売上金額を分子とするもので、必ずしも豆腐だけの売上げによるものではない。)を算出する際平均されてしまうわけであり、このことによって、推計の合理性が担保されるのである。

原告は、このことに想いを至さず、同業者の大豆一〇キログラム当たりの平均収入金額と豆腐の売値とを比較してそれだけの収益が自分にはないと主張しているが、この主張が、的外れであることは、いうまでもない。

3  そこで、当裁判所は、別表3の1ないし3に記載されたとおりの大豆一〇キログラム当たりの平均収入金額によって、売上金額を求め、これを基礎に、本件同業者の平均所得率によって原告の本件係争年分の事業所得金額を算出すると、被告主張の金額(別紙2の<2>)になることは、計算上明らかである。

4  原告としては、この算出所得金額が原告のそれと比較して実際と合わないと主張するのであれば、自己の保存する諸帳簿に基づき実額主張をして、平均からの乖離を立証すべきである。しかし、本件では、原告はそうしないのであるから、そのことに由来する不利益は、原告が甘受するしかない。

5  別紙2の<3>特別経費、<4>事業専従者控除額は、当事者間に争いがないが、原告は、別紙6の雇人費四万円が、昭和五四年分、昭和五五年分にもあったと主張している。しかし、原告は、ただ主張するだけで裏付けとなる給与台帳などの提出をしないから、採用の限りではない。

6  まとめ

原告の本件係争年分の事業所得金額が、本件処分のそれを上回ることは、明白であり、本件処分には、原告の事業所得金額を過大に認定した違法はない。

<省略>

五  むすび

本件処分には、原告主張の違法事由はなんらないから、原告の本件請求を失当として棄却し、行訴法七条、民訴法八九条に従い主文のとおり判決する。

(裁判長判事 古崎慶長 判事 小田耕治 判事補 長久保尚善)

別紙1

課税の経費

<省略>

別紙2

本件係争年分の事業所得金額の計算

<省略>

別紙3の1

同業者率一欄(昭和54年分)

<省略>

※ <6><7>欄が空白のものは、大豆仕入数量Kgが調査資料に記載がない。

別紙3の2 同業者率一欄(昭和55年分)

<省略>

<省略>

別紙3の3

同業者率一欄(昭和56年分)

<省略>

<省略>

別紙4

本件係争年分の売上金額の計算

<省略>

別紙5

係争各年分の算出所得金額の計算

<省略>

別紙6

本件係争年分の特別経費の明細

<省略>

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